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コラムColumn

つぶやき 角 昌晃

  2007年〜2010年のつぶやきです。

忘れられない出来事

隠岐病院へ勤務していた時の出来事です。
70歳代の老夫婦の奥さんの方が糖尿病から血液透析導入となり、目も不自由であるため御主人に役場へ身体障害者の申請書類の手続きに行っていただきました。透析を導入される方には必ず行っていただくいつもの手続きでした。
役場から帰ってこられた御主人が、私になんとも言えない悔しそうな表情で口を開かれました。役場の担当者にこんな年で透析までして、税金泥棒だと言われたというのです。
「今まで生きてきてこんなに屈辱的なことはありませんでした。私たちは世間様に恥ずかしいような生き方はしてきたつもりはありません。」
うっすらと目には涙が光っていました。
「なんてことを言う奴だ!当然の権利ですよ。担当者の名前を教えて下さい。僕が話しをします。」
今にも怒鳴り込みに行きそうな私に御主人はこう答えました。
「先生、ありがとうございます。でももういいんです、放っておいてください。小さな村ですから、またお世話にならないといけませんから。また私達が困りますから。ただ悔しいだけで、先生に聞いてもらえればそれでいいですから。」
私はそれ以上何もできませんでした。なぜそのような役人を糾弾しなかったのか今でも判りません。本当にあとで嫌がらせがあるのかもしれないと思えるほど隠岐には古い時代の空気が流れていたのも確かです。担当者を突き止めて謝罪させることもできたでしょうが、住人皆が顔見知りのような小さな村でその後も暮らしていかなくてはならないこの老夫婦のことを考えると、安易に医者の正義感を振りかざしてよいものか考えさせられたのです。そしてそれは今でも私の心残りです。

なぜ公僕である役人がこのような考えを持つに至ったか。
なぜ患者は黙っていなければならなかったか。
なぜ自分は行動できなかったのか。

それはやはり患者さんの中の一部には自己管理が非常に悪く、いたずらに合併症を増やして薬や検査、手術で多額の医療費が必要な人が実際にいるからということに他ならないと思われます。そのような患者がいることを知っているから役人は糖尿病から透析になったこの患者さんにひどい言葉を浴びせ、患者さん自身も行政から世話になっているという引け目から胸を張ることができず、そのような患者さんを目の前に私も声を大にして文句を言えなかったのではないかと思うのです。

ではどうすればよいのか。
患者は自己管理をしっかり行い、胸を張って透析患者としての義務を果たしていれば自分の権利を堂々と主張できるでしょう。そのような患者が多くなれば行政は医療費の金額だけで透析患者を差別せず、不幸にして病気になっても健気に病気と向き合う姿勢に理解を示すようになるのではないでしょうか。その上で患者に対する冒涜があれば医療者は躊躇せず物申せるのではないでしょうか。

みながゆがみのない幸せな気持ちで透析医療にかかわりたいものです。


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